昔は色指定の上手い人の給料が高かった。今もやっぱり同じ…
昔は色指定こそ、プロのデザイナーとアマチュアを分ける、最も重要なスキルでした。今はPCとカラープリンターで簡単にシミュレーションできるので、誰もトンチンカンなカラーリングの失敗なんてしない。だけど、怖い落とし穴も…
クリ絵(26歳)=グラフィックデザイナー歴4年目の向上心旺盛な女性。ようやく担当のクライアントを持ったが、デザイン業界の将来性に不安を持っている。
師匠(55歳)=地方都市でデザイン制作会社を経営するアートディレクター。約20名のクリエイターとともに多くのクライアントの様々な案件に取り組んでいる。
クリ絵:師匠、Macがまだない頃、若いデザイナーはどんな仕事をしてたんですか?
師匠:Mac以前の時代かぁ…。
暗室にこもり、トレスコープと言う簡易製版写真機で紙焼きをして、印画紙に印字された写植ってやつをカッターナイフで切って、版下用紙という台紙に糊付けし、版下と言うものをおもに作らされていたな。
クリ絵:な、なんか、職人みたいでかっこいいすね。
師匠:ふっ・・・若いデザイナーの半分は、週に一度は暗室で泣いてたな。
クリ絵:えっ、なんで?
師匠:若いデザイナーなんて2年間ぐらいは何もクリエイティブな仕事をさせてもらえなかったからなぁ。
先輩の描いたラフスケッチに合わせて糊付け、ソルベックス(ソルベント)漬けの毎日だもの。台紙に線を引くロットリングと言う製図用のペンはすぐにペン先が調子悪くなるからメンテナンスが大変だったし。たまにデザイナーらしく色指定をさせてもらっても、色校正が仕上がってきたらイメージと違うし・・・。
クリ絵:そうなんだ。色をうまく指定できなかったんだ、今の若いデザイナーのように。
色指定を失敗しないデザイナーは給料が高かった
師匠:色指定って昔はとても大切で、失敗したら製版をし直して、また色校正をチェックしたりと、費用も時間も多くかかったのさ。だから、色指定が上手なデザイナーはデザイン会社の中でも重宝されて、ボーナスも同僚よりも多く貰ったものさ。
クリ絵:デザイン能力やセンス以前にミスのない色指定ですか(笑)
師匠:今考えると何か変だよね。だけど当時のクリエイターは毎日毎日きれいなカラーバランスの印刷物を必死で探していたよ。雑誌のページを切り取ってスクラップブックに集めていた先輩もいたな。
そのうち、素敵なカラーバランスの印刷物をデザインしているのが同じデザイン会社だと気づく。そのデザイン会社のファンになって、ますます研究しちゃう。そうやってノウハウを蓄積していくと仕事もどんどん回されるようになってくる。売れっ子デザイナーになる第一歩は、まずカラーバランスのセンス磨くことだったのさ。今より印刷コストが高かったからね。
クリ絵:今とずいぶん違いますね。
師匠:今はモニターとカラー出力で確認できるもんな。若いデザイナーは幸せだよな…色指定を失敗する悪夢を見ないで済むからな。
だけど今でも色のセンスの悪い表現をいっぱい見かけるけどね。センスがイマイチなのを自覚していないデザイナーが、自分の好みで色を選んでるのかな?
結局のところ、色指定が上手な人って、案件に合わせてカラーリングを柔軟に考えられる「カラーセンス」が優れた人なんだよね。表現案のセンスも周りからイイって言われるから、重要な案件を任せられる機会も増えてくる。そうなると出世も早いし、ボーナスも同期より多くなるだろうね。
クリ絵:ボーナス…。色の勉強をしなくっちゃ!
クリ絵が分かったこと
色指定の失敗をモニターで確認して防げる今のデザイナーは(本当はものすごく)幸せ。
それでも色指定が大切なのは今も同じ。色遣いで出世もボーナス差が出るのだ。