絶品の味わいと満足感。大きさもお値段もうれしい!

第8回を迎える「あんこ巡り」連載シリーズ。今回は金沢市の元町と近江町市場にお店を構える「奥野菓子舗」さんをご紹介します。本店の場所から目の鼻の先にある山の上交差点近くで商いをはじめたのが100年以上前、4代続く老舗です。

創業の頃は、主に上生菓子、落雁、最中などを作っていた歴史があります。戦後の復興期、近江町市場と金沢市中央卸売市場が同じ場所にあった頃、市場は寝る間もないほど大忙しでした。近江町店の開店当初は焼きまんじゅうを出していたそうですが、市場で働く人たちのために考案した餅菓子が評判になり、いつしか餅がおいしい店として知られるようになっていきます。

今や海外はMOCHIブーム。近江町店ではえんどう餅、草餅、おはぎなどの餅菓子を喜んで買い求めていく海外観光客が多くいらっしゃるそうです。
毎朝、名物のあべ川餅をはじめ、朝生菓子がずらり
お店のショーケースをのぞいてみると、名物のあべ川餅、えんどう餅、草餅、おはぎ、季節の生菓子がずらりと並んでいます。驚きなのがこれだけたくさんのお菓子を朝一番に揃えていること。餅つき、あんこ作りなど、先代から製法を受け継いで、手作りのお菓子を提供されています。

夏でもおはぎが楽しめる貴重なお店
和菓子屋さんで夏におはぎを提供することは珍しいのですが、「奥野菓子舗」さんは夏もおはぎを提供しています。おはぎは鮮度が大切なので、売れた分だけ新たに作られて補充されています。夏と言えば、水ようかん、くず餅といった冷たくてつるんとしたお菓子が人気ですが、おはぎはもちろん、えんどう餅や草餅が年中いつでも楽しめます。

おはぎ粒あん、白ごま、黒ごま。白ごま、黒ごまのおはぎの中にも粒あんが入っています。秋口から春にはきなこのおはぎも登場します。
職人の知恵と技が込められた粒あん
あんこは独自の製法で、北海道産小豆を1時間から1時間半かけて丁寧に炊き上げます。まず、豆を洗浄した後、沸騰させて水を足し、豆のシワを伸ばします。

本炊きの工程では、豆の状態を見極めながら水を加えては沸騰させる作業を繰り返し、コトコト煮込んでいきます。この過程であんこの状態は変化し、それぞれの段階で異なる和菓子に使われます。
煮始めのあんこは、みずみずしさと粒感を生かしたぜんざいに。中間段階のあんこは、ほどよいコシと粘りが特徴の草餅やえんどう餅に。そして、煮上げ直前のあんこは、おはぎのあんこに使われます。

小豆の豊かな甘みを引き出す熟練技
大切なのは仕上がりを見極める目。鍋のあんこの水分が徐々に蒸発していく過程で、鍋の中をしゃもじですくってあんこがとろりとたれるくらいがおはぎのあんこの理想形。火加減を微妙に調整しながら、おはぎの食感に最適な粒感となめらかさを見極めていきます。
砂糖は白ザラ糖を使用することで、小豆本来の香りと味わいを引き出しています。どこか家庭料理の煮豆を思わせるやさしい甘さが溢れる奥野さんのおはぎは、長年培われた技術と経験、そして一つひとつの工程に込めた丁寧な手仕事によって生み出されています。

餅米の風味とあんこの甘味が絶妙に調和
毎朝、餅米を蒸すことから一日の作業がはじまります。前日に下準備をした餅米をボイラーで蒸し上げること40分。蒸籠で蒸しあげた餅米はふっくらしっとり。つやつやと輝いて、甘い香りが漂います。

奥野さんのお店では、つるぎ鳥越産のかぐらもちを使用。コシと粘りがあり、和菓子職人の間でも定評がある餅米です。蒸しあがった餅米を半つぶしにして、お米の粒感を残しながら、もちもち感とふっくらとした食感を絶妙なバランスで調和させています。しっとりとした口当たり、ふんわりと香る餅ならではの野趣あふれる風味が同時に楽しめる、和菓子職人ならではの技です。
最後に自家製の粒あんをたっぷりと包んでできあがり。みずみずしい餅米の味わいが小豆の濃厚な風味を引き立てています。先代から受け継いだ製法とおいしく食べてもらいたいという奥野さんの細やかな心遣いが、このおはぎを特別な一品に仕上げています。

ひとくち頬張ると、餅米の自然な甘さとふっくらとした食感に心が和みます。
手作りのお菓子を届けたいという想い
ご主人がいつも考えているのは、どれだけ食べやすいお菓子にできるか、そしていつも安定した味を提供すること。毎日細かいタイムスケジュールを組んで、すべてのお菓子が一番いい状態で店頭に並ぶように心掛けているそうです。

出来立ての餅菓子はもちろん、どら焼、六方焼などのあんこ菓子も人気です。
街の和菓子屋ができることをずっと
金沢で創業100年以上。時代が変わる中で小さな和菓子屋さんを営んでいくことは想像以上に大変なことです。「うちは餅屋。これ以上は作れないし、新しいものもいいけど、定番のものを丁寧に作っていきたい」とご主人はお話されます。お菓子への真摯なまなざしと素材や製法へのこだわりが生み出す奥野さんのお菓子は、これからも地域に笑顔を届けてくれることでしょう。

店舗情報
- 店舗名
- 奥野菓子舗 本店
- 住所
- 石川県金沢市元町1-1-16
- 電話番号
- 076-252-2742
- 営業時間
- 7:30~18:30
- 定休
- 水曜、第1・3日曜